424号 発進塔:輿論と世論

掲載日:2017年09月15日

明治の初期、西欧化が進むなか、英語の「public opinion」や「public voice」に対応する適当な言葉が日本語にはなく、仕方なく中国古典から文字を借りるかたちで使われて来たのが表題の「輿論(よろん)」である。中国の唐時代には既に広く使われていた言葉らしく、その語義を「輿論とは、輿は衆人なり、衆人の議論を謂うなり」とある。それが今日いう民主的な考え方に基づいていたかどうかは別として、為政者がいかに民の声を気にかけていたかを窺い知ることができる。なお、明治の初期の頃には、稀にではあるが「世論(せろん)」という言葉も使用されていたらしい。

だがこの世論という言葉には、理性的な討議などによる合意や事実をめぐる公的関心事を意味する輿論に比べて、きわめて情緒的・感情的な共感を呼ぶものであり、私的な心情や、言論による空気みたいなものとして使われていた。英語でいうと「public sentiments」といった意味合いである。
ところが1946(昭和21)年公布の当用漢字表では「輿論」が削除されてしまい、総て「世論」に統一され、しかも読み方がヨロンとなり、今日に到っている。

さて、市民社会における世論の起源は17世紀のイギリスとされている。社交場としてのコーヒーハウスは身分の枠を超えて、自由な言論が交わされる場として、また新聞や世間の噂を通じた情報の場として、世論形成に重要な役割を果たしたと言われている。米国で選挙のたびに話題になるティーパーティーはそういったものの名残りであろうと考えられる。一方フランスでも、カフェやサロンが同様に自由な言論の場となっていた。当時は絶対王制の時代であったが、そういった空間までは取り締まりが及ばなかったのであろう。

なお19世紀以降になると各国とも、国民統合を推進する為にも、世論を無視して政治を行うことは困難となり、より世論を気にするようになり、今日に到っている。

世論調査

無作為にある数の人々を抽出し、あらかじめ用意された設問に答えてもらう方法で意見を尋ね、それを集計することで、より大衆の意見がどうであるのかを要約しようというものである。最近では新聞社や各種調査機関、あるいは政党などが定期的に実施している。企業でも方針を決定するにあたって、独自の手法を駆使して活用しているようである。

私は以前、その確率を信じようとしなかったが、最近ではそれを認めざるを得ない心境になっている。勿論、その設問が人々の日常生活の中で議論をし、自分なりの識見を持っている事柄に関してという前提である。

しかし政治に関する調査では、政策内容を比較するより、ある政治家や政党を好きとか嫌いとか、他よりよさそう、といったセンチメンツに偏り過ぎていると感じるものが多いのに当惑している。また同じ設問を繰り返し、調査自体が人々をして一定の方向に導いているようでもある。

人間は他人を嫌ったり、憎んだりするようには生まれて来ていない。だが一旦嫌いになってしまった者を再び好きになるのは難しいのだから。

一貫グループ会長
永野 義孝

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