417号 発進塔:老馬の智用うべし

掲載日:2016年07月10日

かの秦の始皇帝をして「寡人此の人をみて、之れと遊ぶを得ば、死すとも恨まず」と言わしめた人物がいた。「韓非子」をはじめ多くの書物の作者である韓子である。寡人とは王侯貴族が自分を少し謙って用いる言葉である。さしずめ「私は」と置き換えてもいい。注釈は必要ないと思うので省略する。

表題は韓非子の一節である。韓子の作品は今日でいう政治・法律の学に近く、賞刑を君主の二柄としている。特に信賞心罰を厳守することとしたものが多くみられる。なお韓非子には引例が極めて豊富であり、しかも読む人の興味をそそるものが多い。韓子はのちに始皇帝に仕えていることから、始皇帝の壮大な野望にも大きく関わったのではないかと考えられている。前置きが長くなってしまったが、概略はこうである…。

紀元前3世紀の話であるが、斉の桓公が北方平定の為、孤竹という国を伐つべく遠征した時のことが舞台である。春に出陣し、当初は夏頃までには帰れるものと安易に考えていた。だがいざ戦になってみると、相手方の抵抗が強く、戦況は思うにまかせず苦戦を強いられた。結局のところ平定を終え、帰路についたのは、真冬になってからであった。途中猛吹雪にあい、進行する方向すら判らず彷徨い、立ち往生して10万と言われた軍・馬は慌てふためき、極度に困憊した。

そんな折、管仲が桓公に進言した言葉が「老馬の智用いよ」であった。年老いた馬はどこに行っても自分が生まれ育った故郷を憶えているからである。馬の手綱をやたら引くのではなく、手を離しなさいと言ったそうである。全員が無事に帰還できたという。この例を挙げて、韓子は人が最も困難な局面に向き合い、どうしようもなくなった場合には慌てず、教養のある人や尊敬する人、上司や経験豊富な人に尋ねてみなさいと説いているのである。

下問を恥じず

2つの点を留意して頂きたい。まず第一に老馬に委ねる前に自身で考え、悩むことである。何でも指示待ちの管理職が多いが、まず検討して、提案し、実行して欲しい。失敗も結構である。

次が下問を恥じない事である。よく、こんな質問をすると笑われるのではないかと知らぬ侭で過ごしてしまう人を見かける。同僚やたとえ部下に対してでも遠慮はいらない。小学校の頃を思い出してみてはどうだろう。質問する子どもほど頭が良かったことを。

運営上の問題で困ったときに、穏便に済まそうと思ったら、経験豊かな人に問い、これは改善した方がいいと思ったら、若い人に問いかけてみたがいい。若い人というのは、案外良い発想をするかも知れぬから。ただ、恥じる必要はないと言っても、安倍さん程に厚顔無恥に振る舞ってもらうのも困ったものではあるが…。

思い出

枕元の電話が突然鳴り出し、寝ぼけた声で「はい永野です」と出ると「エイと申します」と言う。「エイでは判りませんけど」と返すと「永六輔です」とおっしゃった。親友の中村八大さんが病気療養中でしばらく預かってもらえないかという内容であった。33年前のとある夜中の話である。以来永い間交遊を続け、会う度に示唆に富んだ話を多く頂いた。その中の1つを紹介してみよう。

夏の高校野球で、勝利した時の校歌斉唱についてである。勝利した学校は何回も斉唱をするが、初戦で敗退した多くの高校は、1回も経験することなく去って行く。そこで敗退した方に出場記念として校歌斉唱をしてあげれば、出場校総てに行き渡り、より多くの思い出を残せるのではないか、という発想である。事柄を一面だけから捉えないで広い角度から見つめた永さん的な発想である。ご冥福をお祈りしたい。

一貫グループ会長
永野 義孝

今月の紙面一覧

1.寿康園移転運用開始
2.技能向上を目指して 還暦お祝い会 福祉スポーツ大会
3.クローズアップ-急性呼吸器感染症- 決算告示
4.回復期リハ病棟開設 健診センターの特色とご案内

Copyright© 2013 一貫グループ All Rights Reserved.